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桜色に染まる春

本や番組の感想など

【感想など】裕時悠示『俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』1巻

 ※ネタバレがあります

 

 

頭の悪い買い物

 いらない、と思って売った本もしばらくすると気になってくる。買ってみるが、飽きるとやっぱりいらなくて売る、そしてまた買う……という無駄なことを私は何度もしているが、みなさんはいかがでしょうか。

 たとえば昔ガンガンに載っていた『ジャングルはいつもハレのちグゥ』を、ブックオフで全部揃えて、ブックオフに全部売って、もう一度買ってまた売った。で、また最近になって気になっているけれど、無限ループにはまりそうなので、もう買うのはやめておこう。

 ライトノベル俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる』も、どうやら一度売ったらしい。らしいというのも、売った記憶がまったくない。しかし現に手元になく、本を捨てる際は必ず、ブックオフ等に売るか引き取ってもらうのが常なので、売ったのに違いない。そんなわけで (?) 、もしかしたら元は自分のだったかもしれない『俺修羅』を、ブックオフで6.5巻まで揃えてきた。

 

一巻のあらすじ①

 季堂鋭太は、県立羽根ノ山高校 (通称ハネ高) に通う高校一年生。ハネ高の同級生で幼なじみの春咲千和と夕食を取る彼の家には、両親が居ない。

 鋭太は中学生の時、人生観を変えるふたつの事件を経験していた。両親は離婚してふたりとも蒸発。千和は事故で大怪我を負い、後遺症の影響で打ち込んでいた剣道を止めざる得なくなってしまった。

 鋭太は、両親の離婚から「恋愛アンチ」を自称するようになった。一方で、怪我を負いながらも慰めてくれた千和のため、彼女の体を治せるような医者になるという目標を抱いた。

 高校入学から数か月が過ぎるころには、鋭太は学年一の秀才と言われるまでになっていた。千和は剣道に代わって、恋愛に打ち込むようになった。そんな折、鋭太はわずか三ヶ月で50人以上に告白されたという美少女、夏川真凉にいきなり告白される。

 

 

久しぶりに読んでみて

 久しぶりに読み返してみると、やっぱり忘れている場面が出てくる。冒頭の千和の告白 (の練習) シーンからして忘れていた。

 また大筋として覚えていても、細部はどうしても忘れてしまう。個人的に目が留まったのは、鋭太が厨二病時代の思い入れから「前世」という設定について語る場面。最近 (と言えるのかどうか) 、異世界に転生するという展開がひとつの流行のようであるから、それとも少し関連するかもしれない。この妄想の場合は、ファンタジー世界から現代的な世界への転生のようだが。

 

いいか、前世ってのは「お花畑」じゃダメなんだよ! それ相応の苦難があり、葛藤があり、それで現世に逃れてきたっていうドラマが必要なんだ! それを、『あたしの前世は、お城で幸せに暮らしていたお姫様☆』だと? 前世を何だと思ってやがる!

 

 前世云々、ノート云々、は二巻以降に登場のヒロインにも関係してくる。

 

一巻のあらすじ②

 真凉が鋭太に告白したのは、男除けに彼氏のフリをしてほしいからだった。真凉は偶然手に入れた、鋭太が中学時代に妄想を書き連ねたノート (通称「中二ノート」) で脅し、鋭太と真凉はフェイクの恋人となる。

 鋭太に突然彼女ができたことに、千和は怒り心頭。腹いせに奇行に走る千和を納得させるため、真凉は鋭太と千和の三人の部活「自らを演出する乙女の会」、略して自演乙を立ち上げる。真凉は千和の恋愛を応援する名目でからかい、鋭太もそれに付き合わされる。

 千和は真凉に言われて、イケメンの先輩坂上拓也と恋人となるという、具体的な目標を立たせられていた。どう考えても千和に好意を抱くとは思えない中、千和は坂上先輩にラブレターを渡す。すると坂上先輩からの返事は、予想外にもデートへのお誘いだった。

 

フェイクの彼氏

 三巻の作者あとがきには、「本作の登場人物は、必ず何かを演じています」と書いてある。中学生の鋭太は妄想をノートに書き連ねたり、漫画の登場人物を気取ったりし、高校からは論理的な人物を装っている。剣道ができなくなった千和は、恋愛に生きようと雑誌や漫画に触発され、あるいは真凉が考えた脚本を演じてみる。真凉は鋭太と嘘の恋人関係を演じる。そしてどれもこれも、拙くて、うまくいっていない。

 鋭太は自分のことを、恋愛アンチと名乗っている。単に恋愛に嫌悪感があるとか、劣等感があるとかいっただけでは、ここで言っている恋愛アンチにはならないようである。背景事情に家庭の問題があって、それが鋭太や真凉の恋愛観に繋がっている。

 

 幸せな恋愛をして、幸せな結婚をして、そういう人の方がよっぽど多いのだと。

 が、だからといって、「俺は幸せな恋愛をしてみせる!」と思えるかどうかはまた別の話だ。恋愛なんてしなくたって、生きていける。

 

「恋愛なんてしなくたって、生きていける。」ちょっとした標語のように見える。

 

一巻のあらすじ③

 鋭太は千和のことが気になって、坂上先輩とのデートの待ち合わせ場所をこっそり覗きに行った。そこには真凉もいた。真凉とふたりで千和を見守るが、いつまでたっても坂上先輩は現れない。いい加減しびれを切らしてきたころ、坂上先輩は友人を引き連れて千和の目の前にやってくる。千和の告白を受けたのは、からかうためだった。

 千和を侮辱する坂上先輩たちに、鋭太は真凉の静止を振り切って殴り込む。鋭太は勇気を振り立たせるため、かつて妄想した強い自分「暁の聖竜騎士」を名乗り勢いで喧嘩を仕掛けるが、多勢に無勢でやり返されてしまう。すると突然、どこからともなくアルミの棒が千和の前に投げ込まれ、千和は昔取った杵柄、剣道の腕前で坂上先輩の仲間を蹴散らす。

 千和は坂上先輩に本当は好きでもなんでもないこと、鋭太に女の子として見られなかったことへの腹いせに告白したことを告げ、頭を下げた。坂上先輩は退散していき、負傷した鋭太はその場で気を失ってしまった。

 翌日、鋭太は真凉にフォローするため会いに行く。河川敷で真凉と会った鋭太だが、千和との関係に思うところがあった真凉は、その場で鋭太のファーストキスを奪う。真凉は「あなたの初めての相手は、春咲千和ではない、この夏川真凉よ!」と宣告する。こうして鋭太は、彼女と幼なじみに言い寄られる状態になってしまったのだった。

 

ヒロイン

 鋭太の幼なじみ千和は、前に読んだときより好印象な人物に映った。テンポのいい掛け合い、コメディタッチな作風なので、こうした明るいキャラはよく映えるんじゃないか。

 鋭太は千和を家族同然に見ている。千和は一貫して、鋭太を意識して異性として見られたがっている。鋭太は家庭の問題から恋愛は嫌煙しても、千和との疑似家族関係には心地よさを感じている。反対に、千和は疑似家族に留まるのが嫌で、恋愛関係になりたいと思っている。ふたりとも家族と恋愛をどこかで、何かしら別枠扱いしているのは共通している。

 鋭太が両親の蒸発によって、千和との関係が家族の枠に収まっている。千和の場合、鋭太との関係は家族のそれとは別と考えている。家に帰れば、家族がいる。そのため、恋愛の枠をずっと空けておいてあるのだ。

 その恋愛枠が突然、偽の彼女夏川真凉によって、 (見かけ上) 奪われてしまう。当然、心中穏やかではなくなる。真凉が急に割って入れたのも、腐れ縁ではお約束の恋愛枠の空白があったからだ。鋭太は鋭太で、真凉が彼女でも、偽の関係であるし、家族枠にしっかり収まっていると勝手に思っているので、千和との関係に大した影響はないと高をくくっている。

 鋭太と真凉は、どちらも恋愛アンチを自認しているが、置かれた状況はやや異なる。鋭太は家庭の問題で傷ついて恋愛アンチにはなったが、千和との関係があるため、恋愛枠が空白でも拠り所はある。対して、真凉はどちらも実質的には空白状態なのだろう。真凉は拠り所として、ちょうどいい空白を鋭太と千和に見つけた。

 前に読んだときは、真凉が個人的に一番気に入っていて、千和はそうでもなかった気がするが、時間の経過なのか、元よりいい加減なのか、印象が変化したように思う。取りあえず、最新刊に追いつけるように読み進めていきたい。